ごんずい 44号水俣病センター相思社 機関誌 ごんずい 44号


えびすさん 水俣の海と魚を巡る大熱論

 昨年秋、水俣の海を巡って様々な動きがあった。九月に水俣湾の仕切網が撤去され、十一月に水俣湾埋立地で行われたみなまた総合物産展では、漁協や小売商の組合などが参加して海の幸フェアが初めて開催された。このまちに暮らす者にとって、すぐそばにあるのにどこか遠かった海。その身近な海に対する扉がようやく少しずつ開き始めたのかも知れない。これからの水俣で、海やそこに住む魚たちとどうつき合っていくのか。海と魚に熱く深く関わる三人+αが大いに語る!
(構成 遠藤 邦夫)

井上和也さん 杉本肇さん 宮本祐二さん
井上 和也(いのうえ かずや)
1962年、水俣市湯堂に生まれる。大学卒業後、流通関係の仕事を経験。96年より、みなまた観光物産館まつぼっくり館長。
まつぼっくり 0966−62−2003
杉本 肇(すぎもと はじめ)
1961年、水俣市茂道の網元の家に生まれる。東京でインテリアデザイナーの仕事に従事。5年前に水俣に帰り、漁師となる。「火のまつり」をきっかけに生まれた竹の打楽器演奏集団「竹の炎」で太鼓を受け持っている。
杉本水産 0966−63−3916
宮本 祐二(みやもと ゆうじ)
1957年、水俣市に生まれる。水俣で魚屋を10年経験し、現在は魚介類専門レストランGANZOを経営する。
GANZO 0966−63−2136


海の幸フェア1海の幸フェア2海の幸フェア3

[海の幸フェア]

遠藤
 今日はお忙しいところありがとうございます。水俣でアグレッシブに仕事をされているアクの強い御三方に集まって頂いたのですが、何から始めましょうか?
井上
 昨年の物産展の海の幸フェアからどうですか。初めての企画だったし、あれだけ人が集まったので、その辺のところから入ったらどうでしょう?
杉本
 最初は人が来るかなー、あそこに寄るのかなあと思ったんです。でも寄ってくれて。
遠藤
 僕なんかはお客で行ったんですけど、みんなの足が海の幸フェアに向かっていた。だいたいあそこは騒がしかったですもんね。だからみんな吸い寄せられちゃう。
杉本
 騒がしい! 飲ん兵衛がお祭りしとる感じ。
遠藤
 他人事みたいに言われますね、漁師の人が。
杉本 
 俺はそぎゃん飲まんばってん。じゃばってん2斗で足らんちゅうわけやな、酒がたい。また次の日は樽ば空けて、足らんで持ってこい!
井上
 今回、海の幸フェアをやって、やっぱり海の活力を感じました。

遠藤
 海の幸フェアに参加された方の感想はどうだったんですか?
井上
 反省会の中でみなさんが言われたのが、不安があったちゅうのがやっぱ一番みたいですね。やる前の一ヶ月ちゅうのは、はっきり言ってもう参加すること自体が不安だった。だけどやって良かった、最終的には来年もやりたいと。最後の飲み会のなかで、若い世代の自分たちが活気を出すためのグループ組織作りが必要だというのが、みなさんから出てました。
 私自身の感想としては、そんな中で今後モノを流すにあたって安心して食べられる、できるだけ鮮度の良いものを出すためにも、お客さんを選ぶと言うとなんですが、水俣のモノじゃないと食べないという人を探して行く方が賢明な売り方じゃないかと思うんです。薄利多売じゃあ水俣は勝ち目はないとはっきり言ってる人もいます。

シロゴ[シロゴのこと]

遠藤
 杉本さんがシロゴ売ってて、仕切網がとられる前なんかは、安全なのかって話はなかったですか?
杉本
 一年に一〇回くらい、必ずそんな電話がかかってくるんです。おたくの魚は美味しいけれども、水俣の外でとってくださいと言われるんです。うちの製品は良いけど、水俣以外のところでとってくださいと言われても、うちは水俣以外のところではとれないんよ。「何でですか」と聞くと「やっぱりねえ」と言いながら「どちらさんですか」と聞くと、ガチャンと切ってしまう。
井上
 私が杉本さんのお母さんから最初に見せられたものが何だったかというと、水銀値のデータを見せられたんですよ。自分たちはあまり気にしてなかったわけですよ。ところが「井上さんこうやって安全なのよ」って言われた時に、最初はとまどいました。正直びっくりしました。
杉本
 直接売るってことはこっちに責任があるんで、裏付けがないと自信を持って言えないわけよ、お客さんに対して。それはやっぱ言っておかないと。
宮本
 買う側に責任があるのも結構あるですね。見た目とか、そういったもので判断してしまうから。
杉本
 魚が本来持っている白さというのは、例えばイリコにしてもどうしても市場に出ているのとは違うんですね。
井上
 面白いことがあるんですね。福岡、熊本に一年間、杉本さんところのを持って行って売ってみてこんなことがありました。福岡で三、四人に言われたですかね、水俣だから安全だと言われたんです。最初は「水俣病の水俣ね」って言いながら、「いや水俣だから逆にこの辺でとれた魚より安心だよ」と。それを聞いたときにそういうとらえ方もあるのかなあって。

鮮度が一番[鮮度が一番]

杉本
 食生活がそうなのかもしれないけども、船の上では刺身を食べても、陸に上がったらあまり食べないんですよ。
宮本
 そら不信感やろ?(笑い)
杉本
 不信感じゃなくて、一匹だけ食べるのよ。タチウオ、揚がったばっかりのヤツをさばいて。そうするとロケーションもいいからやっぱ美味しいじゃない。だから陸に上がってまでわざわざ食べようとは思わないし、なんでかなと思うとやっぱ、それはちょっと鮮度の違いかなっちゅうことはあります。
宮本
 特に漁師さんは鮮度に厳しい。うちあたりでも何にこだわっているのかと自分で考えてみたら、鮮度にこだわってますね。誰が見ても鮮度がいいちゅうのが、例えば魚が生きていれば一番鮮度が分かり易いわけです。水俣の傾向としては皆さん鮮度にうるさい、味はその次。鮮度重視ちゅうかな。
杉本
 面白いことをうちの女房が言ってるんです。水俣の魚は刺身は食べられないというんです、硬すぎて、鮮度が良いから。
井上
 こりこりするとか、歯ごたえがあるとか、それがなかったら美味しいとは言わないですもんね。
杉本
 うちの女房は東京育ちで、魚もずっと食べているけども、要するに東京なんかは三日くらい経った魚が、魚屋に言うには一番美味しいちゅう言い方をするのよ。我々からすると柔らかいのは食べられない(笑い)。
遠藤
 テレビなんかのグルメ番組を見ると、鮮度の良いシメ立てじゃなくて、二、三日経った方が美味しいとか言ってますよね。
杉本
 シロゴを釜揚げするにしても鮮度が絶対です。とってきて鮮度が悪いと、一時間違うと全然違います。漁師は短期決戦でやらないと、忙しい時に忙しくやらないと。やはり生き物だから、獲る時も、ようするに狩猟なわけよ。もたもたしてると駄目になる。明日行こうかなんて、明日はいないわ!
 生きている物を扱っているから、そうじゃないと生き物に対してはやっぱり、こだわり持っていかないと、鮮度を大事にしていかないと。追いかける方から我々はやってるから、その時が過ぎたらもう駄目。
 うちの婆あがうるさいんよ(笑い)。「敵討ちと一緒でおった時にとらんば。もたもたもたもたしとっぞ、何のもたもたしよっとや」って。そこから以降、一日口をきかんもん。「魚と敵討ちはおった時にとれっ」て、三万回くらい聞いた(笑い)。


GANZO1GANZO2[GANZO]

遠藤
 現在は魚介類専門のお店をされているわけですが、GANZOでは何が評判がいいんですか?
宮本
 やっぱり刺身をメインにやってますから。うちの店は口コミで知られているんです。前に魚屋をしてたとか。魚しか扱ってないからとか。
井上
 新鮮な割には食べやすい価格になっている。普通、生け簀のある店で、これをくれと言って五千円を切るということはあり得ませんからね。
宮本
 水俣は鮮度にうるさいマチですから、鮮度を保つためにどうすればいいのかなと考えました。普通のお鮨屋さんは、大きな魚を買って三枚におろしたりするでしょ。そうするとその日にお客さんが、予定通り全部来たら予定通りさばけていくわけですね。ところが来なかったらどうなるのかと考えると、次の日に回すか煮物とか焼き物にするでしょ。そしたら予定通りの利益を生まないちゅうか、さばけていかないわけですね。
 それをなくすために、うちでは生け簀を置いているんです。生け簀を置いてどうするかというと、何でもかんでも生け簀に飼えばボロボロ死ぬんですよ、特に天然物は。網の傷とかですね、とれた状態とかによって全然違うもんですから。だから一匹一匹見ながら買わないと駄目です。
 逆に何が問題かというと、生け簀から一匹一匹、例えば三人なら三人、四人なら四人に応じた大きさの魚を上げていくとなると、ものすごく手間がかかっとですよね。そこがどうしてもネックになるわけです。鮮度よく回転させるためには生け簀に活かしておく。お客さんが来てから魚をあげる。同じ時間帯にいっぱいお客さんがくると、もう順番ですたい。そういうメリット・デメリットが必ず付き物です。ただ私の場合は鮮度を選んだだけです。
井上
 それはこだわりですよね。地元の魚で、どういったものがお店で使われているんですか?
宮本
 地元の魚しか使わないというのは刺身用の魚です。刺身用の魚ちゅうのは、今だったらヒラメ、オコゼ、フグかな。時期的には今ヒラメが旬なんですよ。一昨日からスズキが揚がりだしてます。


海と魚を食べる1海と魚を食べる2[海と魚を食べる]

井上
 いま鮮魚センター作れって話が出てきてますが、どういったものを望まれますか?
宮本
 せっかく水俣に来るちゅうことであれば、イメージが暗かったのは海や魚ですから、これを明るくしてやれば水俣のイメージアップは手っ取り早いんよ。それには美味しい新鮮な魚を食わせれば良いんです。
 子供の頃は、海がすぐそばにあるから漁師から買って食わせるのかなと思っていた。ホントは間違っていた、市場を通して、そっから魚屋が買って、そっから旅館の板前さんが買いくるってルートです。お客さんはそういうのは全くないんだから、そこに海があるんだからそっから魚が来るんだとそういう発想なんだと思うんだ。だからもっと大胆に「海だ」という料理をつくってやれば、お客さんにインパクトがあると思うんだけどな。
遠藤
 沖縄でしたっけ、下が市場の魚屋さんでそこで魚を選んで、二階で料理の仕方を言って、作ってもらって食べるような仕組みですが。
杉本
 天草の本渡あたりにもありますよ。
宮本
 例えば湯の児に魚市場を作って、朝市をすればみんなお金を持って来てたい、土産物を買いたいんよ。お金を落としたいと思っているはず。そういうチャンスの場所を作るといいんよ。
遠藤
 水俣の海というと魚が食えるのかなとか、汚染された海ってイメージがあるんだろうけど、けっきょく美味しいから食うというのがあれば、そんなの全部クリアしていきますよね。
杉本
 海岸でビナ拾ったりカキ打ちしたりして、海岸で食べたりするのが旨いんよ。そこにロケーションがあるんだから、どうしてそこに近づけるかが問題よ。そこに朝市とかあって、ちょっとした炭火で焼いて食べたりするのが美味しいんよ。
宮本
 成功してるからといってよそから持ってきても駄目なんです。新しいものを取り組んでいかんと。俺は一つ思うんやんけど、お客さんが自分で何かできるような、うろこ取って、焼いて食いなさいって。広いところに魚とか貝とか並べてあって、みんな買うわけよ。さばいて料理することもできるし、してもらうこともできるようなそんな仕組みはできんかなあ。
杉本
 自分でガラカブを釣って、コンロと鍋と味噌を持って行って、恋路島でガラカブの味噌汁を食う。それがほっとするというか。東京にいるころはそれが夢だったんです。子供の頃からやりつけているから。
宮本
 やりつけている人はそれでいいんよ。やったことのない人は、ちょっと難しいよ、そこまでは。ある程度道をつけないと。そうすると乗ってくると思うとたいな、そういう企画に。
杉本
 漁師の料理みたいなのをなんか一つ作って。
井上
 四人で話してもこんなにいろいろ出て来るんだから、まずはこんな場をもっともっと作るとよかですよね。おっとまとめになってしまいました。

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