特集 水俣フィールドミュージアム構想![]() |
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align="right">編集部
国による水俣病情報センター(仮称)建設が決定した(7p参照)。景気対策補正予算という予算措置からは、水俣病関係の資料・情報の収集・発信が確たる理念に基づき国の責務と認識されたとは思いにくい。やがて動き出す情報センターを含め、水俣において水俣病関連施設が果たすべき役割について、相思社としての意見を表明したい。
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| 湯之児の山の上に建つ国立水俣病総合研究センター |
>世界・未来への発信拠点として
水俣には市立水俣病資料館、熊本県環境センター、国立水俣病総合研究センター、二つの水俣市もやい直しセンター、そして相思社の水俣病歴史考証館と、水俣病事件に係わる多くの施設が存在する。そして、今また新たに国立の水俣病情報センターがつくられようとしている。
これらの施設は水俣病事件があったからこそ水俣につくられた。人類的経験と言われる水俣病事件がこの地に存在し、多額の税金等による施設である以上、水俣市民はもちろん、全国の、そして世界の人々に世代を超えて語り継ぐ、貴重な情報発信の拠点として期待されていることは間違いない。
>施設間の有機的連携を
これまでも、いくつかの施設間でパンフレットの共同作成や特別展の共同開催、資料収集整備の連携は行われてきた。しかし、それぞれの施設が持つ特徴や方向性、役割を洗い出し、独自性を尊重しながら、長期的な視野を持って水俣病を伝えるための協働の取り組みはなされてこなかった。つくられた時代や設立目的、運営主体の立場が異なるので、相互の連携がこれまで希薄なものであったことは致し方なかったのかもしれない。
そのような中で、水俣病情報センターは、「水俣病に関連する国内及び国外の膨大かつ多岐にわたる資料・情報を収集・保管・整理及び解析する」とともに情報発信するものとして建設が予定されている。
人類の遺産である貴重な資料を散逸・劣化させないために、収蔵庫等のバックヤードと地道なデータベース化の作業に存外膨大なコストが掛かる資料保存施設を国が設置する必要性は高い。国際貢献も国の責務であろう。あらゆる資料の一括管理の方向性は、水俣病事件の一方の当事者でもある国による一括管理に相思社や水俣病研究会が収集・保存してきた資料も含ませるのか今後検討が必要だが、行政資料の公開など期待される面もある。このように情報センターの特色ある役割は多い。
しかし、既にある諸施設の活動や機能とまったく無関係であったり、重複する部分がないわけではない。情報センターが新たにつくられようとしている今、それぞれの施設の存在と機能が改めて検証され、共通した目標となる構想が打ち出され、一貫した運営による有機的連携が実現されることが必要とされているのではないだろうか。
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| メチル水銀が流された百間排水口 |
>地域全体が博物館
水俣病に関心を持つ人たちが、年間何万人と水俣を訪れる。ほとんどの来訪者は施設を見学し、水俣病を「知る」。しかし、それで本当に水俣病や水俣に出会ったのだろうか。水俣を通り過ぎるだけになってはいないか。水俣で伝えようとしているのは何なのか。訪れた人が水俣病に出会うとはどういうことだろうか。
建物の中だけで水俣病を語り伝えるのではなく、今も動いている水俣病事件の現場である、人も社会も自然も含めたこの地域全体が、人々に訴える力を持った「博物館」であるということではないだろうか。
水俣で最もタブーであった水俣病事件。人も自然も傷つけ、住民同士の対立を引き起こした水俣病こそが、自然と人、人と人を結びつけるものとして捉えられ、大きなマイナスをプラスの価値に転換することが、水俣で行われていると自他共に認められるようになったら。
自然海岸がきちんと残され、水俣湾埋立地との比較で、水俣病で失ってしまったものの大きさが、一方で海と人が甦りつつある不知火海沿岸の営みも見えるようになったら。
患者もそうでない住民も自分の体験を語りたいと思い、訪れた人と顔が見える関係を結べたら。そのような水俣に、出会いが生まれるのではないだろうか。水俣で力づけられる出会いが。
地域全体が持つ水俣病を伝える力を引き出すのは、個々の施設の存在だけでは難しい。単なる仕事上の共同作業ではなく、水俣病を伝える意志の連携によって、施設の枠を超えた協働の取り組みが必要だ。水俣病を伝える、現在そして未来の水俣はこうありたいという根っことなる意志が見えなければ、「水俣病を経験した水俣からその教訓を世界に発信する」などどいうことは実現困難だろう。
>水俣を語る人、空間、物語
水俣には水俣病の犠牲者の、そして住民の、多くの物語が存在している。また、死者への祈りを捧げる空間も市内各所に生まれてきた。それらは、圧倒的な存在感を持つ遺産とも言える。さらに、チッソにまつわる空間などにも、水俣病事件を記録し、語り続けるために貴重な遺産は数多い。
これらの物語と空間を自らの言葉で語ることができるのは、その地域に住む人々である。こうして、地域の人々が自らをも見せていくことによって地域全体が博物館となる。
チッソの百間排水口や八幡残渣プール等の水俣病事件の現場に、その場の意味と歴史を説明する説明板を設置していくことも可能だろう。ガイドを務めるのは住民自身で、水俣病事件の断片を語る。水俣病のみならず日本の近代化の遺産として、アセトアルデヒド工程など復元保存したチッソ水俣工場を丸ごと博物館として機能させることもできるだろう。エリア内での廃棄物ゼロを目指す取り組みなど、地域の人々の暮らし方も地域全体博物館=フィールドミュージアムの重要な要素だ。
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| 梅戸二子島でのイワシいかしかご作り。高さ3mもある |
>不知火海沿岸フィールドミュージアム
水俣病事件の現場は、水俣にとどまらず、不知火海全域も視野に入れる必要がある。
「水俣病は終わらない」と叫ばれ、水俣病を終わらせようとするものの筆頭に国や県等の行政が挙げられてきた。しかし、意図的に終わらせようとして終わってしまうものではないと確信する。あらゆる社会的な事件、特に被害者が存在する事件において、その事件が「終息していく」最大の原因は、関わる人々の想像力の大きさによるのだと考える。
「不知火海沿岸フィールドミュージアム構想」は、水俣病事件の全体を今とこれからの社会にとってどのような課題だと想像できているかによって、その可能性が問われている。
地域全体が博物館という考え方は、フランスで始まったエコミュージアムに通じるものだが、多くの人が関心を持ち参加する道をつくるためには、住民がアイデアや企画を出し、行政が金や人材を出す仕組みが必要だ。
熱意が乏しくなりがちな第三者の審議会などからは魅力ある方向性は出てきにくい。問題意識を持った当事者同士が議論を闘わせることから構想を創り出さなければならない。民間の参画・参加は、開かれたイメージを演出するためではなく、内容を高めるためにこそ不可欠である。
構想を推進する担当者は、二〜三年で異動していく役所の事務職の人ではなく、情報発信の拠点となる各施設には専門の学芸員が必要だ。そして、本質を見極め表現する学芸員によってプログラムの充実がなされ、施設というハードに命が吹き込まれなければならない。
このような運営がなされなければ、二一世紀を超え二二世紀をも見据えて水俣病事件の意味を伝えることはもちろん、不知火海沿岸フィールドミュージアム構想など画餅であろう。従来のやり方では、実のない形ばかりの建物になりがちであることを、私たちはいやというほど経験してきた。
こうした活動は、地域の生活レベルでの再生、活性化とも密接に結びついていく。
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| 明神崎の資料館横の林に立つアコウの樹。 気根が発達している |
>長期的視野に基づく理念の確立を
水俣が「水俣病の教訓を世界に発信する」拠点となるために、今、最も必要とされているのは、水俣病事件の経験を心に刻むことによって生み出される、水俣病事件を表現し伝える哲学と理念の確立ではないだろうか。
一時危惧したように明神崎の自然林を破壊して情報センターを建設したのなら、真に水俣病事件を表現する現場を壊し、擬似的な人工物に置き換えてしまうことになりかねなかった。
博物館を作るときの定石として、基本構想、基本計画、基本設計、・・・と、各年度の予算措置がなされていくように、計画は、長期的な視野に立ち、確たる理念の下に具体化されるべきである。伝えたいもののはっきりしない「博物館」などあり得ない。
広島や琵琶湖の博物館の活動が、過去のことだけではなく未来に向かって平和や環境の創造を呼びかけているからこそ生き生きしているように、水俣の諸施設の活動も光り輝くものであって欲しい。
大きな犠牲を払った人と地域の財産を、保管する単なる「箱」に墜ちないために私たちは問われている。
> 水俣のグリーンツーリズム(gt)に関する動きをお知らせする新連載です。なんと毎号掲載予定(ホント?)。水俣に来たことがある人もない人も、新しい発見があるページにしたいと思っています。どうぞよろしく。
align="right">小里アリサ
第一回は、突然ですが水俣からはるか遠く、最上川が流れる山形県朝日町でグリーンツーリズムとも関わりが深いまちづくりが展開されていると聞いて、その基本理念の「エコミュージアム」に迫ってみました。
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| 講師の西澤信雄さん。滋賀県出身。 朝日鉱泉ナチュラリストの家を経営。 西澤さんが発行している「朝日連峰 山だより」という機関誌は、鋭い視点 と暖かい語り口が魅力的で、冬の間 にこつこつと聞いた山の人たちの話 もめっぽうおもしろい |
>◎西澤さんのお話から
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| 朝日町54地区の宝物を中学生がうたに詠んだカルタ。 正月のカルタ取り大会はすごい盛り上がりだったとか |
>[エコミュージアムとは]
エコミュージアムは、一つの建物に集めた収蔵品を見せる従来の博物館とは異なり、「見せたいものが本来ある場所で、そこに暮らす人が、見せたいものを見せる」博物館である。また、地域の文化や自然の保護センターであり、地域のことを学ぶ学校であり、地域の将来を考える研究所でもある。
エコミュージアムは、このように地域を理解し発展させることが目的とされ、中央集権に対する地方自治、地方文化の再確認という思想に基づき、一九六〇年代のフランスで形作られ、日本には八〇年代に入ってきた。
その運営は、地域に点在する場所をそれぞれで管理することが基本にあって、全体では、@利用者の委員会 A科学的に考える人の委員会 B経営者の委員会、の三つの委員会によって行っている。市民がアイディアや企画を出し、行政が資材や人材を提供することがエコミュージアムには必要である。
>[朝日町とエコミュージアム]
朝日町の子供を対象に、十五年前から毎月、まちにある美しい自然の観察会をおこなってきた。炭焼きや機織り、養蜂といった山の技術や文化にも触れて、これは大人にもできないかと思ってきた。その時、地域全体がエコミュージアムという考え方があると聞いてフランスまで見に行った。
町内十六人で研究会を作って進めてきた。地域の人が自分で作って自分で展示してその地域の人に見てもらうのがエコミュージアム。自分の地域にあるものを活かして、住民が地域を創っていくエコミュージアムの理念を朝日町の基本構想に取り入れようということになった。
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| アラン・ジュベール氏による「エコミュージアム を含む新しい博物館の考え方」 季刊ミュージアム・データ no.18「フランスの エコミュージアム」(丹青総合研究所)より |
>[地域の人が楽しむ]
よそ者で、しかも田舎では警戒される自然保護に関わっていた者が言い出したわけだが、地域の子供たちと十五年も自然観察活動をやっていたので、「あの人は自然保護だけれども悪い人じゃない」という信頼もできて、エコミュージアムの理念がまちづくりに取り入れられた。
エコミュージアムは、地域の人が来ないと、地域から見て役に立っていると思われなければダメ。「中学生が選んだまちの宝ものカルタ」は好評だった。エコミュージアムの役割で、学校への貢献は大事なことだ。
>◎お話を聞いて
水俣には水俣病について知るための施設はあるが、水俣に住んでいる人が、その場所で水俣の将来を考え、そこが地域のためになっていると感じられるだろうか。それを楽しめるようなプログラムがあるだろうか。
地域の問題解決や住民の対話を活動の目的とする、地域闘争から生まれたエコミュージアムもあるという。相思社を含め、市民と行政の協働の取り組みとして、この分野に注ぐエネルギーがもっと必要だ。
>◎天野さんの囲炉裏端で
石飛での交流会では囲炉裏端に海やまちや里の人が集まって、ぜいたくな一時を過ごした。西澤さんに朝日のブナのスライドを見せてもらい、その実の可愛らしさや雪と新緑のコントラストに感動! こんな風に自分のまちの財産を伝えられる人が増えることがgtの基本と再確認した。
西澤さんには、「日本でgtというと、単なる農業体験というイメージができているから、水俣でやっていることをちゃんと伝えられる名前にしたら」という宿題ももらった。おおっと早くもタイトル変更か? 今年のごんずいのがっこうのネーミングは? 波乱の次号を待て!(夏のごんずいのがっこうの日程は22pに掲載)
編集・発行 水俣病研究会 99.1.20
発売 葦書房
価格 3000円(税別)
※相思社でも取り扱っています。送料は実費を申し受けます。
水俣病第一次訴訟を理論面から支える目的で一九六九年に結成された水俣病研究会が、二六年の歳月をかけて編纂した『水俣病事件資料集』が刊行されてから二年余。待たれていた、『資料集』収録以後の事件関係資料調査と各分野における水俣病研究論文による年報の第一号が発刊された。
この本の特徴は何といっても資料が豊富であることだ。全体の七割以上を大小取り混ぜ六九編の資料が占め、基本的な重要資料はもとより、通常では入手不可能であろう貴重な内部資料も多い。論文とあわせ、水俣病事件に関心を持つ者には欠くことのできない研究書である。
【目次抜粋】
特集−水俣病問題の政治解決
水俣病未認定患者の「救済」 富樫貞夫
政治決着に至るまでのプロセス 高峰 武
「もやい直し」の現状と問題点 山田忠昭
ルポ・水俣病政治決着その後 宮澤信雄
資料・水俣病問題に関する意見書 津田俊秀
>今年も豪華2本立て。相思社の新たなフィールド、湯ノ児の森での企画もモリ沢山。詳細は次号!
第1回 水俣環境ツアー
7月28日(水)〜8月 1日(日)4泊5日 29400円
第2回 初めての水俣
8月20日(金)〜8月22日(日)2泊3日 18900円