特集 : ムラの暮らし ムラの仕組み…… 2
水俣は沿岸域半農半漁村、マチ、野川型農村、山間部農村、里の農村、開拓型農村の六つに分けることができる。人は水のあるところに住みつき、光や風の当たり方を考慮して住居を建て、地形を利用して畑や水田を作る。その意味から言えば、東部地域は人の暮らしと風土とのつきあい方が形に現れた、典型的な温帯モンスーンの里の農村である。
東部地域は深川、宝川内、市渡瀬、石坂川、葛渡、薄原の六つの地域からなる。水俣川中流域の海抜一〇〇メートルから二〇〇メートル前後(石坂川の石飛は開拓の村であり標高は五〇〇メートル)に広がった農村である。稲作は自家用が多く、お茶の栽培が盛んである。平地が少なく石積みの棚田と水めぐりの工夫は、風土と暮らしのあり方を教えてくれる。夏の暑さを避けた日添え山付きの集落、冬の温かみを求めた日当て山付きの集落が混在している。生活用水は簡易水道が中心だが、それぞれの家には自家水源あり、池を通して排水が行なわれている。
水俣川、久木野川、宝川内川が集まる釣橋は、昔は釣橋銀座と形容されたほど人と商売が集まったところだった。現在でも油屋、米屋、鍛冶屋、理髪店、医院、商店がある。
自然神もたくさんある。山の神さん、水神さん、作の神さん、田の神さん、それぞれの神は風土と暮らしのあり方を象徴している。昔の人が自然の中に神を見出したのは、現在の宗教の信心とは異質のものだ。根底には自然への畏怖があるが、山と里の境、川と土の境、またその境を越えてくる風などに、格別の注意を払っていることを明示したことに意味があるように思える。例えば虫追い祭ではムラの境界まで虫を追っていき、そこで隣のムラに引き渡した。
東部は観光的な名所はないが、自然と暮らしと仕事の結びつきが景観を作り、コミュニティーを作ってきたことが刻まれた地域である。独断と偏見で東部各地域の見所を列記してみよう。深川では、内野川の集落景観、水俣川のホタル。宝川内では、丸石当たりの風景、願成就祭、中屋敷の共同洗い場。市渡瀬では、渕上曽次右衛門が作った農業用水路、釣橋の家並み。石坂川では、亀齢峠でのダイゴロ遊び、石の多い石坂の風景、石飛ビオトープ。葛渡では、馬頭観音下の水俣川、どんとイチョウ。薄原では、薄原神社のナギノキ、家々の水周り、矢羽根積みの棚田。
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| 亀齢峠でダイゴロ遊び |
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| 水俣の無農薬茶を手摘 |
東部地域への新しい風としては、グリーンツーリズムと青空市を提案したい。昨今はやりのグリーンツーリズムは、地域とモノと人のつながりに注目した旅の形だと思う。外来文化には抵抗もあるが、当たり前だけどフランスと日本ではグリーンツーリズムのあり方は違う。ヨーロッパの冷涼で乾燥した風土と、日本の湿って暑いモンスーン地帯では、風景もモノも人も違う。しかし自分の時間を自分が好きなように過ごすこと、都市とは違う風土と暮らしを楽しむこと、消費のまなざしではなく生産のまなざしを会得する、などは共通したテーマではないだろうか?
家庭菜園で野菜を作っている人は多い。それぞれの旬には、子供や近所の人にあげてもまだ残る。喜んでもらえるから作り続けたい。一方、水俣のマチの人などは、水俣産の野菜を簡単に手に入れることができない。お店には何でも並んでいるけど、どこで取れたものやら誰がどんなふうにして作ったものやら分からない。
青空市はこんな事情を背景として、人々の出会いの場を提供することだ。作る人も無理をせず食べきれない分を出荷する、食べる人は旬の地場の野菜などを手に入れることができる。無理のない需要と供給の仕組みとして考えられないだろうか。さらに水俣の人が水俣の野菜などを食べると、地域としての水俣の資源が流出しないことになる。地域作りは何よりも、自分で食べていけることが大切だと思う。例えば毎日の食べ物のうち半分が水俣産でまかなえるようになったとしたら、どんなことが考えられるだろう。それは食べ物ばかりのことではなく、健康や福祉ばかりでなく、経済効果ばかりでなく、もやい直しにまでも影響を及ぼすのではないだろうか。
ひとつの試みが多面的に影響して、思わぬ方面にまで展開することを夢想して、水俣の一〇年後二〇年後の「餅」を描きたい。
(参考文献「水俣病地域における環境再生・創造ビジョン調査」熊本県開発研究センター編)
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| 丸田さん夫妻 |
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| 自慢のたんぼを耕す |
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| 大根がスポット抜ける畑 |
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| 石坂川ふるさと祭 |
■米を無農薬で作っていらして、水俣の「環境マイスター」にも選ばれているとお聞きしたんですが?
清隆:米とタマネギを無農薬で作ってます。その前は減農薬だったんですが、米は無農薬にして八年目になっですな。きっかけはやっぱり、身体を悪くしたけんですたい。最初の頃はですね、勉強不足もありましたし、収量的には減りましてね。普通の作り方をしている人からすれば、二〜三割減ってしまったですな。米の場合は虫の被害も色々ありますが、一番被害を出すのはウンカに葉巻虫ですね。前は薬ばかけよったですね、今はアイガモを使いますけん。カモが虫も食ってしまうんですよ。今はカメムシの多かでしょが、これは秋になってカモを田んぼから出してから、出てくっとですよ。これは防げません。カメムシが米の汁を吸って、黒ーくなってしまうとですよ。それを一つ一つ手で取っとです。
富士子:そこまでこだわらんと商品にならんとですよ。今年の収量は、九反作ってますが一反で八俵取らんばと思ってます。普通は七俵半か八俵の間でしょうかね。普通の作り方よりは多かと思うですよ、やっぱ。
清隆:「ぼかし」を勉強して作りました。それで化学肥料を使わんでも、ある程度量が採れるごんなったもんですけん。石坂川では他に、無農薬の人はおりません。水俣市内で五軒くらいですかね、アイガモ飼ってですね。やっぱ「変わり者」ちゅうて言われよったですね。私は、自分では普通じゃって思うとっとですがね。
富士子:気にせん方ですもんね。自分が真剣にやっていけばよかですもんね。家内(親戚)は言わんです。がんばるなーっちゅうか、「こげんせんば、いかんねー」って、最近はまわりん者が言ってます。
清隆:化学肥料を使ったり農薬をまいたりするのも、良かっです。手早くするためならですね。しかし、自分の健康を考えるならですね、あんまり薦められんですね。
■タマネギはどうですか?
清隆:今はタマネギの出荷ですね。サラダタマネギも作ってます。普通のタマネギが今から出荷です。もう三反、全部無農薬でです。タマネギの無農薬は四年目ですかね。
富士子:すごくおいしいですよ。ぼかし作りですから。アラー!知らんとですか、「ぼかし」を。米ぬかとかですね、EM菌とかですね、使って作っとですよ。それが肥料の基本ですよ。タマネギは個人で売ってるんですよ、農協には出さずに。
清隆:もう化学肥料を使うこたーなかもんだけんですね。根本的に違うもんだけん、作りが違うとですね。販売はですね、宅配が主ですけど。それと学校給食ですね、八代の。
■石坂川の「ふるさと祭り」って、どんな祭ですか?
富士子:去年で一四回目。ものすごーい人気があるんですよ。野菜とか、全部持ち寄るんですよ。豆腐も作るし、手作りのコンニャク。豆腐も大豆から挽いてですね。品切れで足らん状態ですよ。
清隆:前は産業祭って言って、青年団でやりよったです。その後、区で続けてきたです。十二月の第一日曜日に学校でですね、会場は。石坂川の全てが参加するもんだけん、学校まで巻き込んですっとですよ。日曜日ですけど、生徒も登校日にしとっとですよ。
品評会もあっとです。一軒から三品以上出してもらってです。寄付でですね。十二月ですが、小さな竹の子も出っとですよ。
富士子:競りがあるんです。もうおもしろいんですよ、競りが。競りは地元の者が、ベテランでですね。持っていった品物は、全部です。あらゆるものを競りにかけて。いくら、いくらって、鐘の鳴っとですよ。
清隆:農家もですね、これがあるけんって、良い品物を作るんですよ。市内でもこういう品評会ってなかでしょ。石坂川だけですもんね。市の農政課は「あんたん地区ばかりだけん、市長賞はもうやりならんとばい」ってですね。でも「役場のあんたどんの勉強にもなっとよ」って言うとですよ。良か品物ばっかり三百ばっかり並べて置くとですけん、良か品物見る目も養ってもらわんばですね。
■石坂川の自慢は何ですか?
清隆:地区としてのまとまりは、市内で一番でしょうな。市内全部の競り舟(せりふね)では、優勝もしましたですし。運動会も、全部、村全体ですね。それと一番の自慢は「環境協定」が自慢になっとやなかですかね。これは市で一番最初ですけんね。区で環境を守るための約束ですね。でも新聞社の取材でも「こんなに簡単で良かっですか」って聞かれるですが、私は「自分たちで守れんもんば作っても納得はせんです」って言います。防災協定も、石坂川には山を切った後に、良か石の取れるんです。掘るもんですけん、後の土石流が恐ろしかもんですから。で、協定結んで自分たちの地域は自分たちで守らんば、どうにもならんばいってですね。そういう発想で提案したっです。
石坂川は、大藪・石坂・荒平・構・萩嶺・石飛に分かれとっとですが、私の石坂川の一番の自慢は、人のまとまりですね。(聞き手/構成 吉永利夫)
| 環境マイスター |
| 水俣市は、一九九八年から、地域の再生を環境に配慮したモノづくりの面から支えている職人の社会的地位を上げるため、それらの人たちを「環境マイスター」に認定している |
| 地区環境協定 |
| 「自分たちの生活環境は自分たちで守る」ことを目的として、住民が地域の環境を保全していくために、環境に関する生活ルールを決めること |
| 丸田清隆さんプロフィール |
| 1940年4月10日生まれ 丸田富士子さんプロフィール 1940年10月28日生まれ 無農薬米などの栽培により、お二人とも「環境マイスター」に選ばれる |