特集:水俣のマチ作りをどうするか(水俣病特措法を受けて)

水俣病特措法のうち患者救済については、患者自身が声を上げ実施を迫った経緯があり、チッソ救済についてはチッソばかりでなく政府も利害を共通するものとして取り組んできた。その結果、患者救済策が210万円の一時金と被害者手帳として実現され、チッソ救済がJNC分社化として実現した。残る「地域社会の絆を図るための事業、地域の振興等」はどうなのか? 現時点に至るまで、水俣の地域住民が形になったと実感できる「地域社会の絆を図るための事業、地域の振興等」は存在していない。

水俣市が進めている環境円卓会議は、それを形にする努力の一つではあろう。先日の環境円卓会議拡大推進委員会で、専門委員の水戸岡鋭治さんが「デザイナーとしての私は、地元から上がってくる意志を形にすることはできるが、それが漠然としている段階ではすべき仕事はない」(大意)と述べた。水俣地域にはさまざまな意見があり、一つの方向性を持たせることがなかなか難しい状態だ。しかしこれはやらない言い訳でしかない。

さまざまな意見があることは良いことだが、意見を言い放しで終わらせるのではなく、もう一歩先に進めて「それを実現する具体案」にまで煮詰めることが必要なのだ。問題点の指摘、理想型の追求、あるべき正義の主張等々をそこに止めるのではなく、更にその先まで進めて何らかの実行提案提案にまで進めたい。そこに至る議論の共有化、仕組み作り、資材の蓄積等を周到に準備して、好ましい結果を誰にでも分かる形で実現することが、「地域社会の絆」や「地域振興」の実例である。

例えば、その実例の一つがエコボ水俣にある。田中利和専務理事は語る「水俣病の歴史は重い。地域に多くの課題を積み残してもいる。その『負の遺産』は無視できないが、逆に大きくプラスに振れる可能性を秘めている。国内外にリユースの取り組みをアピールするとき、九州や熊本より『ミナマタ』の方がブランド力は大きい」。企業でできたことを地域に広げるにはハードルは高いが、会社経営も地域経営も本質的には同じものだと思う。
とりあえずリスクのある提言を一つ。5つの環境円卓会議にチッソ-JNC職員を少なくとも1人以上は参加させてもらいたい。その理由は、
①企業人は夢を形にすることが仕事であること=リアリストである
②水俣で一番大きな会社であること=関係者が多い
③原因企業の責任を補償に止めるのではなく、公害を克服した地域社会を住民と共に作り上げることがチッソ-JNCの社会的責任(CSR)と考える

遠藤邦夫

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です