2008年5月25日・理事会
〈はじめに〉
2007年度はパートが5名いたこともあり職員数は10名であった。しかし、スタッフは5名しかいないという状況の中で個々のスタッフの負担が大きくなり、計画通りに進まない事業もあった。
そんな中にあってもチーム制が徐々に機能し始めた。相思社の抱える課題が明確になりスタッフに共有されたことや課題が解消されつつあることは大きな成果といえるだろう。2008年度も定期会合を増やすなどしてチーム制をさらに強化していきたい。
職員体制については助成事業の終了とスタッフ希望者の新規採用がありパートを減員した。当面はスタッフ5名、月極給与パート2名(スタッフ希望者を含む)、時給パート1名の8名体制で臨みたい。しかし、総務・会計担当、資料担当スタッフを早急に補充しなければならないという状況は続いており、下半期には何らかの体制変更・強化が必要になるだろう。
産廃問題、未救済患者問題という水俣の抱えている二つの大きな課題は膠着状態が続いており、2008年度も動きが続くだろう。産廃問題においても未救済患者問題においても相思社の活動は重要なものとして地域で認識されつつある。それだけに相思社の責任も重くなってきている。
相思社自体の抱えている課題も多い。財政基盤の確立、旧生活学校・湯の児台地活用、スタッフ不足、公益法人制度改革への対応、厚生年金等への加入問題等の課題にも対処していかなければならない。
(地域や相思社の抱えている課題)
(1)抜本的な財政改革=財政基盤の確立
(2)公益法人制度改革対応
(3)厚生年金及び健康保険加入
(4)未救済患者問題への対応
(5)水俣産廃問題
(6)スタッフ不足解消
(7)旧生活学校・湯の児台地の活用
(個々の課題への対応)
〈抜本的財政改革:財政基盤の確立〉
近年事業活動収支は黒字が続いてはいるものの財政基盤の不安定は解消されていない。今後とも物販チームを中心に財政基盤の確立を目指していきたい。いずれ財政基盤確立のための作業部会を設置する必要もあると思われるが、他に緊急の課題もあり今年度は設置を見送りたい。
なお、今年度の予算については昨年、一昨年と比較すると厳しいものとはなってはいるが、5年前、10年前の状況とは異なり、事業収支は黒字が見込める状況ではある。個々のスタッフの努力次第で減価償却分も含めて黒字にすることも可能だと思われる。
〈公益法人制度改革対応〉
2006年度に評議会設置のための作業部会を立ち上げ検討してきたが、「公益法人制度改革関連3法案」が成立し、相思社が想定していた評議会では認可されないことが明らかになった。
公益法人制度改革に伴い組織の改変が必要になっている。単に評議員会を設置するだけではなく、理事会の機能も大きく異なるものとなる。従って、理事会と評議員会との機能分担、寄付行為(定款)の変更等が必要となる。最終期限は2012年12月だが余裕を持って作業に望みたい。今理事会において「公益法人制度改革対応作業部会」を立ち上げ、2008年度ないしは2009年度中に素案をまとめ、2010年度に公益財団法人の認可申請を行いたい。
委員候補:富樫貞夫、丸山定巳、松崎忠男、遠藤邦夫、弘津敏男
〈厚生年金及び健康保険加入〉
相思社は社会保険としては労働保険と雇用保険にのみ加入している。厚生年金及び健康保険加入については長年の課題であったが資金不足から見送ってきた。一昨年のアドバイザー委員会においても「厚生年金等の加入について再度検討するべき」との意見があり、昨年度検討を開始した。厚生年金等に加入した場合相思社の経済的負担は大きくなるが、スタッフ個々については利点も多く、今後新しいスタッフを確保するためにも厚生年金等に加入すべきであろう。ただ、相思社の経済力から考えるとスタッフにも応分の負担を強いるしかなく、給与の改訂も連動せざるを得ないだろう。したがって厚生年金等の加入を検討することは給与規程の検討にも連動するので給与規程等検討委員会の延長上に「厚生年金及び健康保険加入検討作業部会」を立ち上げ、2008年度中に結論をまとめ、2009年春の理事会において提案したい。
委員候補:富樫貞夫、永野隆文、弘津敏男、坂西卓郎
〈未救済患者問題〉
与党水俣病プロジェクトチームの第二の政治決着に向けた動きは頓挫している。与党案に応じない患者団体があること、チッソが応じないことがその表向きの原因だが、根底には「もはや政治決着ですますときではない」という意識が多くの水俣病関係者の中にあるからだろう。
民主党は独自の「水俣病特別法案」を示した。ほぼ全ての未救済患者団体の要求を満たす八方美人的な案であり、患者団体にとっては受け入れやすいものだが、公健法や95年医療事業との整合性が見られず現実的とは言い難く、今のままでは実現性はないだろう。
相思社に相談に来る保健手帳申請者は2006年夏頃のピークと比べると半数程度にまで減少している。しかし、申請者への情報の伝わり方、申請者や居住地域は変わりつつあり、相思社の目指している「水俣病に対する偏見・差別の解消」、「水俣病患者が普通に暮らせる地域づくり」は確実に進みつつある。
〈水俣産廃問題〉
昨年、IWD東亜は環境アセス準備書を提出し説明会を開催した。説明会は紛糾したものの処分場建設へ向けて運動の舞台は熊本県に移った。反対派住民は対県交渉や公聴会によって「水俣病を抱えた水俣」の力を見せつけた。産廃問題は長期戦にならざるを得ないだろうが、今後も水俣病の経験が力になっていくことは間違いないだろう。
水俣病への偏見・差別が大きい中で相思社が運動の表面に出ることはマイナスになると配慮し、裏方に徹してきた。相思社においては毎日のミーティングで産廃が話題にならないことがまれなほど全スタッフが産廃問題に取り組んでおり、その検討結果は担当者を通じて事務局や産廃反対組織に伝えられている。その成果はすでにIWD準備書に対する意見書、熊本県交渉、公聴会などに現れている。今や相思社は水俣産廃処分場建設反対運動にとってなくてはならない組織であると地域に認識されている。こういった状況を踏まえこれから徐々に運動の表にも出て行きたい。
相思社としては産廃処分場阻止の運動を通じて、水俣病の経験を活かしたゴミを出さない暮らし、そして水俣病に対する偏見・差別の解消を目指していきたい。
〈スタッフ不足解消〉
スタッフ不足は深刻である。相思社の最大の課題といっても良いだろう。相思社のスタッフになるには能力も必要だが、それ以上に社会貢献・変革に対する強い意志と自主・自立の精神が要求される。したがって即戦力となるスタッフはおいそれとは見つからない。意欲のある人材を見つけ育てていくしかないだろう。今年度は新しいスタッフ候補が一人加わった。じっくりと育てていくと同時にさらに2~3名のスタッフ候補を見いだす努力を続けたい。
具体的には長期ボランティアやインターンの受け入れを考えていきたい。なお、2009年度には埼玉大学から1年間ボランティア希望もある。
〈旧生活学校・湯の児台地の活用〉
中長期的には大きな課題ではあるが緊急性がなく現時点では課題を先送りせざるを得ない。
なお、西回り自動車道の用地計画の中に旧生活学校敷地の三分の一が含まれており、今後の推移を見守りたい。
(各チームの活動計画)
〈患者チーム〉 弘津/川部/永野
保健手帳申請手続きを通じて、水俣病への理解、水俣病に対する偏見・差別の解消、そして水俣病患者が普通に暮らせる地域づくりを目指したい。そのためにも水俣病の説明に力を入れ、一人ひとりの被害の聞き取りにも時間をかけていきたい。
水俣病患者救済問題については水俣病患者連合事務局として恒久的な解決策=水俣病特別法の制定に向けて活動を続けていきたい。
〈伝えるチーム〉 川部/高嶋/永野
08年度は前年度の広範囲の議論を深め、実行に移していくため、「考証館」「水俣学習受け入れ」セクションを設けたい。
「水俣の入口」として「考証館」・「水俣案内」があり、それらを有機的に結びつけること、また、産廃問題・資料整理・患者聞き取り・保健手帳対応などは外部から見えにくい面もあるが、相思社にとっては伝える活動の基盤になっている。それらを連動させ、見えるようにすることで相思社活動全体を知ってもらえるだろうし、水俣病の現在的側面を表現することにもつながっていくだろう。
月に一度は会合や作業日をもうけて具体的に作業を検討し、実施していきたい。
なお、この分野はすぐには収入に結びつかないことが多く、また各種助成の対象にもなりやすいので様々な助成制度を活用していきたい。今年度は「熊本県水俣病関連情報発信事業」や「花王コミュニティー・ミュージアム・プログラム助成」に申請したい。
〈機関誌編集〉 遠藤/川部/高嶋/(校正:芳田)
「ごんずい」は相思社の「水俣病を伝える」活動の中心の一つであり、「ごんずい」によってその時々の相思社の問題意識、活動を伝えている。「ごんずい」に書かれていることが「相思社」や「今の水俣」と考えている読者も多い。また「ごんずい」の中身は購読者数だけではなく維持会員数や寄付の増減にも直結している。そういった意味からも「相思社機関誌」として編集委員のみならず全スタッフの共有資産として「ごんずい」を位置づける必要がある。
内容の充実もさることながら、「読みやすく、わかりやすい」ことにも心がけたい。また、読者サービスや経費の節減にもつとめたい。
〈資料チーム〉 弘津/高嶋/永野
昨年度で写真データベース作成事業は終了した。今年度は年表データベース作成の最終年度となっている。まずは水俣病年表の完成に向けて力を注ぎたい。また、資料データベース、新聞見出しデータベース、写真データベースを誰からもみやすく、使いやすいものにしていきたい。
なお、最終課題である年表データに各種データをリンクさせる事業については多大な労力と長時間を要する事業であり、今後国水研と相談を始めたい。
〈国際セクション〉 坂西/遠藤/芳田
当初は国際セクションを発展・拡大させ「中国プロジェクトチーム」として、中国での水俣病展などを中心に活動する予定で地球環境基金に助成申請した。しかし、「海外案件においては現地のニーズが必要」との理由で不採用となった。
従って、今年度は昨年度事業を継続して実施するのと並行して再度中国プロジェクトの可否を検討していきたい。
〈物販プロジェクトチーム〉 坂西/遠藤/川部/芳田
物販プロジェクトを立ち上げて3年目となり、当初予定通り今年度に一つの区切りをつけたい。今年度末までに3年間の活動総括と物販事業の中長期的方針を提案したい。
物販機関誌「のさり」の発行は定着したが、労力・コスト増に見合った成果が現れていない。今年度は「のさり」の活用と並行して経費削減にも努力したい。また、物販新企画の開発にも引き続き取り組んでいきたい。