環境大臣 川口順子 様

五月一一日、国と熊本県は水俣病関西訴訟控訴審判決を不服として上告しました。
私たちはこのようになることを憂慮し、四月三〇日付け書面にて「上告権を放棄し、判決に従うこと」を要望いたしました。結果的に私たちの要望は受け入れられませんでした。私たちは「変革を目指す小泉内閣」「タブーをおそれない小泉内閣」だからこそ、「上告しないのではないか」と期待していました。しかし、私たちの期待は失望に変わりました。
一方、その直後の五月二三日、小泉総理はハンセン病国家賠償請求訴訟について、原告の高齢化などに配慮し、福岡高裁への控訴を断念されました。国民の多くがその英断をたたえました。
この落差はいったい何なのでしょうか。長期に渡って原告が苦しみ続けてきたこと、原告が高齢化し一日も早い救済が必要なこと、国の不作為責任を裁判所が認めたことなど状況は酷似しているにもかかわらず、国がまったく異なる対応をしたことは理解できません。
五月二五日付毎日新聞によると、川口環境大臣は「局面が全く違う。(水俣病関西訴訟の上告は)正しい判断だった」「今回のハンセン病と同じ局面は、水俣の場合では九五年の政治決着にあたる。関西訴訟はこれに参加しなかった人々が起こしているが、上告しなければ、政治決着を受け入れた人と関西訴訟の原告との間で不均衡が生じ、かえって問題を生む」と説明したそうです。また「環境省によると、水俣病関西訴訟の上告については小泉純一郎首相の了承を得ているという」とも記事には書かれています。
私たちは川口環境大臣の言う「政治決着を受け入れた人」ですが、「関西訴訟の原告との間で不均衡が生じ、かえって問題を生む」とは考えていません。九五年の政府解決策には「国及び県は、上記の紛争の終結に際し、総合対策医療事業の継続及び申請受付再開、チッソ支援、地域再生・振興のための施策を行う。また、救済を求める者及び企業は、損なわれた地域社会の絆を修復していく「もやい直し」の取組に参加・協力するなど、地域住民とともに地域の再生・振興に積極的に取り組む」と記されています。
また、同年一二月一五日の総理大臣談話においても「政府は、今般の解決に当たり、総合対策医療事業、チッソ支援、地域の再生・振興などについて、地元自治体と協力しながら施策を推進してまいりますとともに、水俣病の悲劇を教訓として謙虚に学び、我が国の環境政策を一層進展させ、さらに、世界の国々に対し、我が国の経験や技術を活かして積極的な協力を行うなど国際的な貢献をしてまいる所存であります」と記されています。
あれから五年余が過ぎました。私たちはもやい直しや地域の再生・振興にできる限りの取り組みをしてきました。また、水俣病の教訓を国内外に伝える事業にも取り組み、あるいは協力してきました。今、地域では行政、患者、市民が協働してもやい直しや水俣病の教訓化、教訓を活かす事業に取り組み、その成果が上がりつつあります。しかし、まだまだ水俣病患者に対する偏見差別は解消されたとは言い難い状況です。
こういった中で上告することによって訴訟が継続し、解決を長引かせることはこの五年余の取り組みに逆行し、残された課題の解決を更に遅らせることになります。チッソは「(平成七年の政府解決策で)会社が選んだ早期解決と同じ考え方に立ち、上告しない」(五月一一日付熊本日日新聞)という判断をしました。国や熊本県も九五年当時の状況を思い返し、今回の判断について再考すべきだと思います。
よって、川口環境大臣、小泉総理大臣、内閣のみなさまのご英断を強く望み、次の要望をいたします。

要 望
一、 国・熊本県は水俣病関西訴訟控訴審判決の趣旨、原告患者らの実状、二一世紀の環境行政のあり方、被害地域における「もやい直し」事業の推進などに配慮し、上告を取り下げること。

平成一三年六月一日
水俣病患者連合 会長 佐々木清登