環境大臣 鈴木俊一 様

今後の水俣病対策についての申し入れ

二〇〇二年一二月四日

水俣病患者平和会              会 長 石田 勝
水俣病患者連合               会 長 佐々木清登
水俣病被害者の会全国連絡会      代表委員 森 葭雄
                          幹事長 橋口三郎

はじめに

二一世紀は環境の世紀と呼ばれています。環境問題はいまや人類の最大課題の一つとなっています。こういった時期に環境庁から環境省に昇格したことは当然のことだと言えます。一九六九年に環境庁が発足し、すでに三三年が過ぎました。この間に日本の環境行政は大きく変わりました。しかし、環境庁として最初に取り組んだ事件が水俣病の行政不服審査における棄却処分の取消であり、環境庁裁決であったことを忘れてはなりません。

一九九五年の政府解決策により、未認定患者の補償問題に一応の区切りがつけられましたが、私たちはこの解決策を万全のものとして受け入れたのではありません。「苦渋の選択」と新聞に書かれたように、長い闘いの末に得たものとしてはあまりにも被害の実情とはかけ離れたもの、受け入れがたいものでした。しかし、私たち水俣病患者も地域住民の一員として生活していかなければなりませんでした。地域で生きていくものとして、それ以降の取り組み、施策に期待したからこそ政府解決策を受け入れたのでした。

一九九五年以降「水俣病問題はもう終わった」と思っている人が多いようですが、私たちの病と生活は歳を経るにしたがってより厳しいものになってきています。また、周囲の偏見、差別、無理解も以前に比べれば緩和されたとはいえ、まだまだ解消されたというにはほど遠いと言わざるを得ません。

環境省におかれては、私たちの苦しみを理解していただき、次に掲げる要望を是非とも実現して頂くよう、お願いいたします。

なお、これらの要望は私たちだけの要望ではなく、すべての水俣病患者、そして地域住民の願いであることもご理解頂きたいと思います。



要 望 事 項



一、水俣病総合対策医療事業の継続に関して

本年三月から、医療手帳更新手続きが簡素化され、また更新期間が五年となることによって、患者の負担が軽減されたことにつきましては、環境省のご努力を大きく評価しております。

しかしながら、医療事業の継続、医療手帳の終身保証は患者にとって最重要、不可欠の課題であることに変わりなく、患者が不安を持ち続けているという状況は続いております。

医療事業の継続が法律的にも保証されるよう、今後ともぜひご尽力をお願いします。

医療制度が「改革」されることによって、医療補償の水準が下げられるのではないかとの不安はますます強いものとなっております。本年一〇月より老人保険制度の改定があり、窓口負担が生じることになりました。今後、熊本県、鹿児島県ともご協議の上、従来通り窓口負担が生じないようにして頂きたいと思います。また、長期入院患者については入院料の一部が医療保険対象外となり患者の負担が生じることになっています。これにつきましても従来通り医療手帳対象者の負担が生じないようにして頂きたいと思います。

今後とも同様な事態が生じることが懸念されています。医療制度がどのように「改革」されようとも、現行の医療補償の水準を決して下げないことを言明して頂きたいと思います。



二、水俣病総合対策医療事業、医療手帳交付者への事業内容の拡充・改善に関して

御所浦島、獅子島などの離島における医療補償につきましては、かねてより改善を要望してきましたが、いまだに十分な措置がとられておらず、離島に在住する患者の不安と経済的負担過多は解消されておりません。

これらの離島に医療施設を設置して頂くことを今後とも積極的に検討して頂きたいと思います。また、医療設備が整うまでの間、離島に在住する患者に対して何らかの経済的補助をして頂くようお願いいたします。

ハリ・灸治療につきましても、要望を続けておりますが、現行制度では補助額・回数とも充分なものとは言えません。ハリ・灸治療の補助の増額と回数制限の緩和、並びにマッサージ治療も補助の対象としていただくように更に検討していただくようお願いいたします。

患者の老齢化が進み、更に不安が増しています。医療事業の対象者も認定患者も病気の苦しみ、生活の不安に違いはありません。しかしながら、補償の内容にはあまりに大きな隔たりがあります。今後、この隔たりを小さくするようにご検討頂きたいと思います。特に、水俣市立明水園に入園を許可されるのが認定患者だけであるという現実は私たちにとっては耐え難い隔たりとなっています。現在、明水園は認定患者の減少により定員割れが生じているとうかがっています。熊本県、水俣市ともご協議され、早急に医療事業対象者も明水園への入園が可能になるようにご検討頂きたいと思います。

また、医師の指示があれば、医療手帳を使ってハリ・灸・マッサージ治療を受けることができるとのことですが、現実はそのようになってはいません。実際に医療事業の対象者が実際に活用できるように対策を講じて頂きたいと思います。



三、水俣病総合対策医療事業、保健手帳交付者への事業内容の拡充に関して

昨年の貴省の調査結果からも、保健手帳を返上し認定申請をする患者が相当数に上ること、保健手帳の使用率の低いことが再確認されています。保健手帳を返上して認定申請をした患者が認定されたことからも、保健手帳該当者も水俣病に苦しんでいる実情を推し量ることができると思います。

保健手帳対象者におきましても、医療費の自己負担分の全額保証をするなど、内容の拡充を今後とも検討していただきたいと思います。また、保健手帳対象者からの聞き取り、あるいはアンケート調査をするなどして、具体的に使い勝手の改善に努力されることを要望します。



四、水俣病の教訓化、並びに教訓を伝える事業について

昨年六月に水俣病情報センターが開館し、一〇月には水俣において水銀国際会議が開催されました。今年六月には「水俣病関連資料整備検討会」が開催され、「水俣病関連資料総合調査事業」が四年計画で開始されました。こういった取り組みは、水俣病の教訓化と教訓を広く伝えるという意味においても高く評価できると思います。

近年環境問題が世界の最重要課題として認識されるようになり、多くの大学で環境系の学部、学科が新設されています。水俣を訪れたり、水俣病の調査・研究に取り組んだりする大学の研究者、学生が徐々に増加しつつあります。しかしながら、現時点では水俣病情報センターは学生、研究者に対して十分な対応ができない状態にあるといわざるを得ません。早急に体制を充実できるような措置をお願いしたいと思います。

水俣病事件の教訓化と情報発信は単に学問の発展、深化に役立つだけではありません。いまだに根強く残る水俣病と水俣病患者に対する偏見、差別の解消にもつながることであります。私たちもできる限りの協力は惜しまないつもりですので、今後とも最重要課題の一つとして取り組んで頂きたいと思います。

平成八年度に始められた「水俣病セミナー」も定着してきました。中国をはじめ海外から水俣を訪れる方が増えるなど波及的な効果が見られます。国内におきましても同様なセミナーを開催されるなど、今後ともより多くの人びとに水俣病の教訓を伝えていくために事業を継続し、発展させて頂きたいと思います。

今年、熊本県は環境教育の一環として水俣現地体験学習に力を注ぐようになりました。また、小学生を対象とした水俣病に関するパンフレットを作成し県内の小学生に配布するとうかがっています。しかし、一方では水俣病ガイド、水俣病関連地区の案内地図、案内板とも絶対的に不足しています。私たちも協力を惜しみませんので、こういった現状を改善するための施策を実施して頂きたいと思います。



五、不知火海の異変調査と沿岸地域の再生・振興について

地球温暖化が世界の最大関心事の一つとされていますが、海流の変化や水温上昇などが各地から報告されています。不知火海におきましても、赤潮の発生、クラゲの異常発生、などの異変がますます顕著になってきています。漁獲の減少による漁業者の生活苦は放置できない状況です。

思い返せば、水俣病の発生の前には海の異変がありました。そういった前兆を見逃したために水俣病が発生したとも言えます。このことを教訓とするならば、今すぐにでも抜本的な対応策を講じなければ、取り返しのつかない状況に陥るのは必然のように思えます。

先般、貴省からは「今後は水質検査だけではなく生物検査も考えたい」旨のご回答をいただきましたが、その後具体策は講じられているのでしょうか。その後の対応をご報告頂くとともに今後の方針をお聞かせ頂きたいと思います。

不知火海沿岸地域(出水市及び出水郡、御所浦町などの離島を含む)は漁業の不振もあり、経済的にも厳しい状況に追い込まれています。不知火海沿岸地域の再生・振興についても特段のご配慮をお願いいたします。



六、協議の場について

水俣病に関する諸問題について、今後とも患者団体との協議の場を設けていただき、真摯に患者の声に耳を傾けていただきたいと思います。

以上