第1節  誰も知らない患者数

第1項  患者数

不明

 「患者さんは何人いるのですか?」
 最もポピュラーで最も基礎的で、それでいて最も答えにくい質問の一つでもある。どの数字をとってくれば患者数になるのか、立場と考え方によって異なるからだ。
 チッソなら認定患者数だけを言うだろう。熊本県や環境庁も同じ数字をあげるかも知れないし「医療事業の対象者も水俣病を否定されたものではありませんし…」と言葉を濁すかも知れない。全国連(水俣病被害者の会全国連絡会議)の事務局なら「医師によってすべて水俣病と認定されていますから原告は間違いなく患者です」と答えるのではないだろうか。
 認定患者数、認定申請者数、医療事業対象者数、訴訟原告数、等々の数字が頭に浮かぶ。どれもそれなりの意味を持つが患者数としては決定的ではない。患者数が不明なのは、水俣病事件を巡って長く複雑な対立があったからだ。
 患者数が不明な原因にはもう一つの理由がある。ちゃんとした調査がなされていないということだ。誰がすべきか、誰ができるのか。答えは明確だ。行政しかない。つまり行政がサボタージュしたのだ。
 本来なら、水俣病が公式に確認されたときに、原因解明の作業と同時に被害の広がりの調査もすべきであった。そうすれば病像も早い段階で明らかになっていただろうし、被害の拡大も防げたであろう。
 初期における調査不足。これは水俣病問題が長引く原因ともなったが、経済優先政策の結果でもあった。