水俣市の産廃処分場問題について私たちはこう考える財団法人 水俣病センター相思社水俣病受難の地であり、その苦い経験を生かして「環境モデル都市」をめざす水俣市に、巨大な産業廃棄物処分場が建設されようとしています。 事業者は、神奈川県に本社を置く(株)IWDの子会社である(株)IWD東亜熊本という産廃処理業者です。これまで水俣とは無縁な企業であるにもかかわらず、住民有志からの問い合わせに対して誠実な対応をしているとはいえません。建設予定地は、水俣川の源流の一つ、湯出川の上流にある盆地状の広大な山林で、古くから周辺住民がその豊富な湧水を上水源として利用しているだけではなく、その下流には市の大切な水源地の取水口が設けられています。 (株)IWDがこの土地に目をつけ、ここに産廃処分場を建設する計画を立てたのは、県外の地権者が単独で所有する土地であったために、きわめて容易に買収できたからだと思われます。これは、産廃処理業者にとって他の処分場予定地では通常考えられないような格好の条件だったに違いありません。一般に都市近郊の建設予定地には多数の地権者がいるのが普通で、その中の数人でも買収に反対すれば、計画は実現できなくなることが多いのです。 しかしながら、この業者がここに大規模な産廃処分場を建設するに当たって、この場所が水源地であることを考慮した形跡はまったくありません。まして水俣という地域が、水俣病を頂点として、これまでチッソ水俣工場から出る産業廃棄物にどれほど長い間苦しめられてきたかに思いを巡らせた形跡もありません。企業の社会的責任を持ち出すまでもなく、これは驚くべき無神経な態度といわざるを得ないでしょう。 水俣市民はもちろん、これまでいろいろな形で水俣に思いを寄せてきた人々にとって、水俣に産廃処分場を建設するというニュースは、その意外な取り合わせに心底驚かされるとともに、「なぜ水俣に産廃処分場なのか」という深い疑問を呼び起こしました。このような草の根の市民感覚は、理屈を抜きにして正鵠を射ているように思われます。 私たちは、以下に述べる理由から、建設予定地における産廃処分場の建設を容認できないだけでなく、(株)IWDおよび(株)IWD東亜熊本に対して水俣からの撤退を求めるものです。 廃棄物処理法に定められた産廃処理の流れをみると、事業者から出た産業廃棄物は、まず収集運搬業者を経て中間処理施設に移され、そこで焼却や破砕などの処理をした後、最終処分場に運ばれて埋め立てられることになります。最終処分場は安定型、管理型、遮断型の三種に区分されています。 しかし、この流れはあくまでも法律上の建前にすぎません。産業廃棄物の年間総排出量は四億トンといわれますが、そのうち最終処分場で処理されているのは約5,000万トンと見積もられています。そして、少なくとも年間総排出量の10%に当たる4,000万トンは不法投棄されているとみられています。むしろ、現行の処理システムは不法投棄を前提として成り立っているといっても過言ではありません。廃棄物処理法は毎年のように改正され、罰則が強化されていますが、不法投棄がなくなる気配はありません。しかも不法投棄の実態はヤミの中で、最終処分場すらその舞台となることが少なくないといわれています。このように、現行の産廃処理システムはすでに破綻しています。 たとえば、安定型処分場は、その名に反して素堀りの穴に等しく、地下水と土壌を汚染する危険性がきわめて高いと指摘されています。事実、各地で有害ガスの発生、自然発火や化学物質汚染が問題になっています。このような危険があるにもかかわらず、現行の廃棄物処理法は、水源地周辺に処分場を作ってはならないという立地規制をしていません。住民は自分の健康は自分で守るしかない。それが現在の日本の現実です。 水俣病は、工場排水の無処理排出という産廃の不法投棄が生み出したものであり、その最悪の結果といえます。現在、3,000人を超える人々が新たに救済を求めて認定申請していますが、その先行きはきわめて不透明です。また、水俣湾の埋立地には膨大な量の水銀ヘドロが埋め立てられたままになっており、その再処理のメドも立っていません。水俣病事件に関して課題はまだ山積しています。水俣病の発生確認からまもなく50年を迎えようとしていますが、水俣病問題はいまだ解決したとはいえない状態なのです。問題の多い産廃処分場を水俣市に建設することが、これに優先する課題とはとても思えません。 水俣市は、現在、市民をあげて地域再生の課題に取り組んでいます。水俣病という負の遺産をプラスに転じる、「環境モデル都市」の建設は困難な課題です。しかしそれは世界的にもまれな壮大な試みであり、水俣の将来はこれにかかっているといっても過言ではありません。今回の産廃処分場問題を含めて、すべての事業がこのような水俣市の長期展望をふまえて評価されなければなりません。そうすれば、結論は自ずから明らかとなるでしょう。 私たちの期待に反して、もし計画どおり産廃処分場が建設された場合には、水俣の将来イメージはどうなるでしょうか。毎日、大型ダンプカーが夜昼となく産廃を満載して市内を走り回ることを想像してみてください。水俣はまさに「産廃銀座」と化し、処分場周辺では産廃の不法投棄が横行する可能性もあります。しかし、何より心配なのは、産廃による地下水と土壌の汚染です。いったん汚染が発生すると、早急にこれを除去することは難しいので、数十年にわたって水俣市民の頭痛の種になるでしょう。荒稼ぎをした後で業者(子会社)は早々に倒産し、市民の税金で後始末をしなければならない可能性も大きいと思われます。 もしこんな水俣になったら、「環境モデル都市」どころではなく、仮にそれをいい続けたとしても、もはやだれ一人共感をもって耳を傾ける人はいなくなるでしょう。 未来に向かって、どのような水俣を構想するのか。産廃処分場問題を機縁として、いま、それこそが問われているのです。 2005年9月8日 |