いつもは合宿が目白押しの相思社の夏は、今年は静かだった。寂しいけれど、これまで気になっていたが手を付けられていなかった資料整理に集中できるチャンスでもある。
今日手を付けたのは、「川本裁判準備書面等」と書かれた段ボールにまとめて入っていた不作為違法確認請求訴訟の供述書。原稿用紙数枚に書かれた原告の供述書のコピーなので、手書きの文字を一日見ていた。
波打つようにゆれる文字は、手の震えをおさえながら書いたのだろうか。署名と本文で筆跡が違う供述書もあるが、署名が患者本人だろう。本文はなめらかな筆跡だが、誰が代筆したのかな。本文も、小さめの丸っこい字や、几帳面そうな文字もある。
印象に残った供述書があって、思わず書き写した。
私達夫婦わさかな取り。せんもんで。暮らしてお居りました昭和三十五年頃から。主人わ村の。きんちやく。あみや。ながれ。あみに。いて。お居りました。その頃わ私しわ村の。じびき。あみにいて。お居りました。すこし。よゆうの出来ました。ので。ちさな舟を買い。あみを。買いました。それから。ずうと。二人りで。でぐりあみを。ひいて。さかな取て。うたり自分で取る。さかなですから朝昼晩の。食事の。おかずに食べて。お居りました。りようはわ。水俣湾の。さかな。貝類も。たくさんはらいっぱい。たべて。お居ります。…
句点だらけで、「は」が「わ」になっていたり、漢字になっていないところもたくさんある。こうやってパソコンに入力するとわからなくなってしまうが、カクカクとした力の入った文字で、原稿用紙数枚を書き上げるのは大変だったのだろうなぁと想像した。「私が書きましょうか」と言ってくれる周りの人もいたかもしれないが、あえて自分の手でしたためたのかもしれない。あるいは、気軽に頼める人が近くにいなかったのかも。うーん。
活字の資料よりも全体に目を通すのも時間がかかるし、データベースに入力する作業中にいろいろ考えてしまって今日はあまり作業が進まなかった。