2020年8月29日 沢畑亨
私は水俣市の山間部、久木野地区に市が建てた「水俣市久木野ふるさとセンター・愛林館」の館長です。全国公募で選ばれて、26年目になります。
水俣川の流域とほぼ一致する水俣市で、久木野地区は上流部になります。水俣市の上流社会(物理的な意味)の一員として、森と棚田のめぐみ(公益的機能)の理解と保全に努めています。
相思社とは、環境省の環境フィールドミュージアム事業で「水俣環境大学」「水俣ESD合宿」を共催してきました。面白い参加者と面白い4日間を過ごしていました。
愛林館に訪れた方に、森や棚田のめぐみを説明する作業は、実は森や棚田の自慢でもあって、大変有意義な活動でした。でも、コロナ禍で人の動きが減り、自慢をする機会も売上もが減って、大変な痛手です。
一方で、熊本保健科学大の非常勤講師もしています。1年生の教養課程(共通教育)の「環境と経済」という大きな名前で、森や棚田のめぐみの他にも、お金とか経済の意味とかいったことを教えています。
今年は、大学のホームページ上に文書を掲載し、学生はそれを読んでレポートを書く方式になりました。受講者は102人です。
毎週講義を書くのは、結構重圧でした。書くとなると、根拠は何か、正確にはどうだったのか、といったことを調べたくなるのです。
学生のレポートには、短歌を課しました。長い文章を読むのが大変、という私の事情もありますが、人に気持ちを伝える文章を短く削ってその分内容を濃縮する作業をしてほしかったのです。
学生は当初は相当戸惑い、心理的な負担も大きかったようです。短歌と言ったのに五七五だったり五七五七五だったりしました。
◯頭の中 短歌のせいで575 短歌を書くのは難しすぎる
民主主義社会の基本的な構造については短くまとめてくれました。
〇主権者が持つ権力のトリセツの法律・憲法理解するべし
〇ルールとは幸せのためあるんだな 私は現在幸せなのか
田んぼのめぐみがなくなる喪失感もあります。
〇マンションが建設すると田が消える 小さい頃の何かも消える
私の小学生時代は、学校給食にご飯はありませんでした。
◯週5回 パンが出るのは 驚きだ 混ぜご飯とか 楽しみだった
〇パンを食べ米の消費が減っていくそして衰退外部経済
メディアリテラシーでは、ネット情報の危うさもわかったようです。
〇サイト主気にして見たことなかったな 嘘の情報扱ってたかも
4週目には、少し変化がありました。
〇おもしろい どんどん短歌 思いつく 慣れってすごい と思わされる
〇気づいたら短歌の製作楽しくて 短歌についても調べてる
森のめぐみについては、たとえがわかりやすいです。
◯四季のある 日本の山肌 万華鏡 季節の変わり目 待ちきれない
食品表示の読み方では、教材にカップ麺を使いました。
◯カップ麺 たった一つの 食べ物で 授業一コマ 頭がパンク
果汁100%(濃縮果汁還元)ジュースでは驚きもあります。
〇100パーは 絞りのジュースと 思ったら 予想もしない まさかの水割り
醤油の表示はこれまで見なかった学生も多かったです。
〇惣菜を 買わずに自分で 作ったが 使ったしょうゆ 安物だった
地球温暖化では、加害者でもあります。
○温暖化 自分は何も 悪くない そう思ってた 実は加害者
〇省エネを 地球のためにと 学ぶ今 涼しい部屋で パソコン眺む
家庭の中でもいろいろな考えがありますね。
〇家族みな 食事が終わり 各部屋に 5台のエアコン せめて2台に
○エアコンを 我慢している 私よそに ガンガンつける くそ弟よ
暑いからエアコンをつけるのはいいのですが、習慣としてスイッチを入れるのはやめましょうね。
〇帰ったら エアコンすぐに つけていた 扇風機のみで いけるじゃないか
水俣病についても考えました。
○水俣病 地名をどうして 病名に 地域はなにも 悪くないのに
〇被害者の補償制度おかしくない? 申請しなけりゃもらえずなんて
○エコパーク 過去にどんぐり 拾ってた 水俣湾だと 初めて知った
髪をいじるとハゲたりしますよ、と警告しました。
○金髪です メッキと頭ははげてから そこからが勝負 腹くくる
日常の中で
〇青空を 見上げる友人 素敵だな これは私の 見つつ観ざりき
◯豆知識 それを撒いてく先生と それを煮て食べ活かす私たち
他の学生の作と自分のを比べるとレベルが違うのだそうです。
〇名作は 内容深くて レベチだな 途方に暮れる 我照らす月
原子力発電についての疑問もあります。
〇日本では 地震や噴火 多いのに 必要なのか 多くの原発
遠隔講義は、やはり問題が多かったと思います。
〇休校で友達出来ずさみしくて 一人眺める遠隔授業
〇本当は 対面授業 したかった みんなと共に 一緒にしたかった
遠隔講義の数少ない利点です。
〇リモートで 疑問はすぐに 検索だ 興味が知識に つながる過程
13週連続で短歌を作ったのだから、皆は歌人ですよ、と言ったことに対して
○僕歌人 歌読むことはまるっきりへたくそだけど もう僕歌人
○今までは短歌読むこと やろうともしなかったけど結構楽しい
この短歌で、毎週文章を書いた苦労が報われました
○これからの日本を背負う私たち 目指すは誰もが笑える社会