相思社に47年無農薬茶をおろす相良村の生産者、宮崎さんが昨年ご病気されたことを掲載したところ、みなさんからのお便りや励ましのメッセージをたくさんいただき、月に一回お見舞いに行くたび、お届けすることができました。宮崎さんも喜んでくださって、本当にうれしかったです。ありがとうございます。

1月の記事　→ https://www.soshisha.org/jp/archives/10035

甘くて重くてコクのあるお茶を作るために菜種油の一番搾りのカスや米ぬかを、一畝一畝、育ち具合を見ながらあげる量を変えていくことを教えてくれる宮崎さん。いつもはにかんだ笑顔で迎えてくれ、私がお茶を飲むのをじっと見つめて「どぎゃんですか」と控えめに尋ねられ。コクがあることや、甘いことや、香りがいいことや、語彙が少ない私が絞り出す言葉に微笑みます。その顔にもっと表現豊かになりたいと思うのです。

宮崎さんが年始に「今年のお茶はもう無理かもしれない」とつぶやかれたとき、自分の心にすーっと冷たい風が吹いたのを感じました。毎日飲んでいる宮崎さんの一番茶は私の体の一部です。いままで当たり前に口に入れていたものが、なくなってしまうかもしれない。

相思社のお茶の生産者の松本さんに宮崎さんのことを相談したところが、「みんな、体調が悪かったっちゃ、新芽が出てきたらお茶が可愛くなって、今年もまたやろうって思うけん、心配せんちゃ大丈夫だが」と言ってくれて、少し希望をもっていましたが、それでも宮崎さんの体の不調は宮崎さんにしか分からない。行くか行くまいか、毎回うだうだ考えました。それでも毎月通おうと思ったのは、宮崎さんを見舞いたい気持ちもだけど、農薬中毒で「死ぬ思い」をしながら、独自の哲学を生み出して、50年かけて無農業の農法を続けてこられた宮崎さんの言葉を形にしたい、それをお子さんやお連れ合い、お客さんたちに伝えたいと思ったから。

日帰りできる県内に暮らすお子さんも、日曜日には見舞いに帰ってこられるそうで、電話だけど話ができ、ファンの存在をお伝えすると「『お父さん、もうお茶はやめなっせ』って言いよったですけど、えぇ、全国にお客さんのおらっとですか」と驚かれていました。そして春。新芽の出始めた頃、松本さんの言ったとおり、宮崎さんから連絡があり、「今年もやってみようち思います」。びっくり、うれしい連絡でした。松本さん、ありがとうございます。

そして今月のある日曜日、宮崎さんのお宅に電話すると、お見舞いにいらしたお子さんが出られました。「今からお会いできますか」と尋ねると、どうぞの返事。お会いしてお話してみると、とってもお父さん思いのお子さんで、宮崎さんもすっかりお父さんの顔。ほっこり緩んでおられます。お子さんに、お父さんへの尊敬を伝えると、その上をいくお父さんの素晴らしさを語ってくれました。お父さんそっちのけで、いかにお父さんが素晴らしい農業をなさってきたか、私の知らない歴史の数々を教えてくれました。それも専門的な知識をもって。

それもそのはず。お父さんから聞いてはいましたが、お子さん、お父さんに夢をたくされ、農業を専門に大学で学ばれたのです。いまも専門的なお仕事をなさっているそうで、そのことを、お父さんからうれしそうに、さみしそうに聞いてきました。勉強をしたお子さんが実家に帰ってくると思っていろんな農業の設備を整えたことも。お子さんの、お父さんエピソードがあんまりにも止まらないものだから、お父さんが「聞けない」とか「無理でしょうもん」と言っていたことを、つい私から聞いてしまいました。お父さんのお茶畑を、継がれませんか？　沈黙が流れました。あ、まずかったかな、と思ったのですが、お子さんはニッコリと「そぎゃん考えとります」の答え。宮崎さんの意思が引き継がれますようにと願いながら、来年からも、宮崎さんのお茶が飲みたいと願いながら、でもお子さんにはお子さんの暮らしがあるだろうし、余計なことをしたかもしれないと、考えながら。

宮崎さんは、お茶の一番美味しいところを相思社に卸します。相思社で扱えない分は、農協に卸され、農薬をかけたお茶と混ぜて生産者も分からないまま販売がなされます。私たちは、宮崎さんのお茶を、宮崎さんのお茶のまま、できるだけたくさん売っていきたいと考えてきました。宮崎さんのお茶を、宮崎さんのお茶として、宮崎さんのお茶のまま飲んでほしい。今年は気合を入れて、いつもより多く仕入れました。

すでに新茶の時期には宮崎さんのお茶を買ってくださった皆さん、うれしかったです。ありがとうございます。まだの方、まだまだたくさんございます。のどの通りが良い、甘みと深み、重みのあるやぶきた茶です。50年のこだわりを、味わってみてください。

https://www.soshisha.org/jp/nosari/ocha/ocha.htm

水出しにしてもよし、暑いときに熱いのを飲むもよし、お茶飲んで、体をすっきりさせてください。