交渉

今日、先月から患者の方とともに続けた交渉のカタがつきました。ようやく。

この仕事を始めてから、色々な方のご相談にのっていますが、その中でもトップ5に入る相談が、「病院に行ったら水俣病被害者手帳が使えないと言われた」というもの。

水俣病という病気は、残念ながら完治しないと言われています。それどころか、水俣病特有の症状以外にも、糖尿病や高血圧、心臓病などの様々な二次障害をもたらしガンになりやすいとも言われています。ですから、現在の医療手帳や被害者手帳は、「歯科、出産、交通事故以外の医療費は無料」となっています。(歯科などは水俣病とは関係ないから医療費は自己負担)。

手帳が使えないと言われるのは不知火海周辺以外の病院がほとんどで、未だに水俣病や被害者手帳の存在が認められていないことを思い知ります。

それ以上に思い知るのが熊本県の態度。

相思社で受ける相談のほとんどは、「熊本県に相談しづらいから」というものです。それでも、こういった手帳関連の声はできるだけあげていきたいと思い、熊本県に相談することがあります。
しかし熊本県の対応は、毎回、「お医者さんがそういうなら、そうなんじゃないですか。」というもの。これまで一度として「無料にするよう働きかけます」と言ったことはありません。
私が、「被害者手帳を発行しているのは熊本県なんですから、手帳の成り立ちや内容だけでも伝えてください」というと、「お医者さんの判断ですから熊本県からは強く言えません」という答え。

患者の方のお話を聞いていくと、熊本県は、この方たちにも毎回この答え方をしているそうです。

この数年、私も同じやりとりを繰り返しています。
先日までは呆れて、私自身が直接病院と交渉をして被害者手帳の存在を認めてもらっていましたが、今回は熊本県にしっかり仕事をしてもらおうと思って、今回は病院との交渉をお願いしました。

お相手の熊本県職員は、水俣病保健課一年目。前にいた課は水俣病とは全く関係のないお仕事だったそうです。
この人で大丈夫かという疑問がわきそうですが、この間の経験から、在籍年数は関係ないということが分かっています。課長ですら、「お医者さんがそういうなら、そうなんじゃないですか」と言うのですから。

最初は一年目の職員さんも私への対応を渋っていましたが、何度も手帳への理解を求め、また患者の現状を訴えました。数日おきに電話をし、状況の確認をしながら、病院への連絡を続けてもらい、今日ようやく病院側はその存在は認めました。本当に嬉しくて、手を叩いて喜びました。こんなの当たり前のことなんだけどね。それでも今回対応してくれた県職員の方の誠意には感謝です。少し光を見た気がします。

今回の病院は、患者が各地からやってくる、かなり大きな規模で、これまでも多くの方が被害者手帳を提出してきたそうですが、その度に断ってきたそうです。

熊本県にはこのような電話が何度もかかっているけど、詳しい説明をすることもなく、水俣病という病に苦しみながらも、この手帳を使うことができない方がいることを、今回連絡を取り合った職員から聞きました。

差別を気にして手帳が使えない、という問題もあるのですが、それとは別に、病院の理解がなく手帳が使えないという問題があります。

まだまだ先は長いですが、一つ一つをこなしながら先を目指します。患者が安心して生きていける社会へ。

そしてこの一つひとつの交渉が他の公害病患者や原発被害者やすべての生きづらさを抱える人たちのことにも繋がっていくといい。

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