相思社を訪れた方たちのこと。
昨日突然電話があった。「あぁ、良かった。水俣病のこと、聞きたいんです。良かったら今日、行ってもいいでしょうか」
わたしが相思社の外で力いっぱいに人と出会いたい思いと共に、相思社を離れたくない葛藤を持ってしまう理由。ここにはいつ電話がかかってくるか、人がやっ てくるか分からないから。瞬間を逃すと、「わたしは水俣病」とは言わなくなる、言えなくなる人たちの存在。「担当者と電話が繋がったら水俣病のこと相談し よう」「担当者が居たら申請しよう」と思ったという、出会えた人たちの話。
外出や出張から帰ってくると、不在時に被害者から電話があり、職員が「永野から折り返し電話をさせます」と提案すると、断固拒否して名前も電話番号も明か さなかったという報告を聞く。担当が居ないことで半ばほっとしながら相談を諦める被害者の気持ちを思うと切なくなる。今まで受けた相談者はいつも、この事 件に対して、ヒトゴトとジブンゴトとの間に身をおいていると感じる。
話は戻って電話のお二人。
自分のことばかりを話さないのがこの人たち。お互いに近くにいるので、相手の症状をよく知っていて、まずは相手の被害から語り出す。
Aさん「こん人はね、めまいが本当にひどくてね。」
Bさん「そうなんですよ、もう20歳前からですよ。めまいの時は、なんとも言えない気持ちの悪さですよ。あれは体験したもんでないと分からんでしょうね。 私のめまいは原因が分からんとです。 病院でもCTやら何やらいくつも検査しましたけど、全く原因が分からんとですよ」
Bさん「こん人は頭痛でいつもロキソニンが欠かせませんとです。朝昼晩て薬を飲んで、それでも治らせん」
Aさん「私もいくつも検査受けたですよ。でも原因が分からんのです。朝昼晩て薬を飲んでも、その時すこぉしいいだけで、いっこも治りません。手がじんじん するのはなんだろう、リウマチかなと思って検査をいくつも受けたけど、それも原因不明。からすまがりもひどかしですね。味付けももうだめ」
Bさん「私も。いつも味が濃い味が濃いて言われますけど分かりませんと」
Aさん「私たち、耳鳴りもひどいよね」
Bさん「そうなんです。ギーっていう耳鳴りがもう20代から延々と続いてます。もういつかしじゅう。夜が一番キツい。あなたもよね?Aさん」
Aさん「そう。私は時間を計るけど、20分以上続くもの。何の音やろかって外を見に行くけど何もない」
Bさん「からすまがりもね。寝てる時になるけど、足がもう千切れそうにつるんですよ。もう何ともいえない」
話をする方の顔を見ながら聞いていると、途中からもうひとりの方が話し始めるのでそちらとも目をあわせ。記録を取るのも、用紙をそれぞれの方たちの前に準備して、それぞれに語ることを間違えないように急いで書き付ける。
Aさん「もう毎月何万て医療費がかかるでしょう?旦那も症状がひどくて仕事を辞めたい辞めたい て。でもこの体でどうやって暮らしますか。誰が医療費払ってくれますか。旦那にはもう少し辛抱してもらって。」
昔のくらし
「もうすぐそこが海でしょう?母の父が伝馬船を持っててね、よく魚をとってきましたよ。私も母に連れられて、よーく貝をとりにいきましたよ」
「親戚が行商さんでね、魚が余るとうちに置いて帰りました。時々はうちでご飯も食べなさってね」
「朝から晩まで魚、魚、魚。おやつもいりこ。肉なんかない、魚しかないからですね。」
この人たちが水俣病じゃなくて、誰が水俣病なんだろう。